ライブに行くことが苦手だった俺がライブでとんでもない女に惚れた

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俺は元々そういうライブハウスとか行くのに抵抗があった
ああいうとこって不良の溜まり場っていうか、なんか恐いってイメージがあったんだよな
それでも行ったのは幼馴染がライブするから来てくれってチケットもらったからだ
因みに幼馴染は男だ畜生
中三の夏休みのことだ
自転車で二十分の場所にあった
どっちかっていうと田舎寄りな地元だからライブハウスなんて滅多にない
その一件のライブハウスだけがその辺りのバンドマンの聖地だったみたいで、だから逆に集まりはよかったんだろう
こじんまりとした規模だったけど人は入ってた

幾つかのバンドが集まってライブをするのを対バン形式って言うんだけど
よっぽど有名でない限りそういう形式が一般的で
友達の出番は二番目だった
俺は一番目の途中で中に入った
凄い音だけどただの雑音だった
ギターもベースもドラムも一体感がなくて、ボーカルに至っては聞くだけでメロディラインを外してることが解りやすい
後々わかったけど最初のバンドってそういうもんみたいだな
そのバンドが終わって、二番目のバンド
幼馴染がギターのバンドがライブを始めた

これまたへっぽこバンドだった

だけど一組目よりはマシで、それに乗じて客のノリも良くなっていた気がする
友達のライブが終わって三組目
聞いてて違和感がないくらいになったちゃんとした音楽だった
ジャンルはその日のイベントの傾向がそうなのか、激しいサウンドだ
三組目のバンドを聞いている途中に幼地味が客席に来て、俺を呼んだ

「ノリ悪いぞおい!」
ライブ終わったばかりでハイテンションのそいつは言うやいなや最前列に頭から突っ込んでいった
俺とは無関係な世界だと思った
三組目が終わって友達も戻ってきた

「次のバンドがやばいんだよ」
あーやばいんだやばいやばいって返したくなるのをぐっと堪えて
四組目のバンドが登場した

「やばい」
って思わず零したそのバンドのボーカルは女だった
髪は女にしては短めで金髪でピアスをしていて
ごついドクロの指輪をしてジーンズにだらっとしたロンT

マイクを手にして重低音を背景に歌いあげる
雰囲気ががっちりと決まった存在感に目も心も奪われたんさ
この時点で惚れてたかって言われたら流石に違うと言い切れる
ただ憧れたんだろう
アーティストってかっこよく見えたりしないか?それと同じで
こうなりたい、とは思わなかったけど
ただただ感動していた

ライブが終わって大トリのバンドが客を盛り上げる
トリなだけあって凄まじい人気があるしボーカルもかっこいいし曲も上手い
でも、俺は四組目のボーカルが忘れられないでいた

ライブが終わった頃合で幼馴染が言った
「打ち上げあんだけどお前も残るか?」
放心状態で俺は頷いた
ライブが終わって客が帰ったり帰らんかったり
時間は七時頃だったかな
ライブハウス的にはこれも商売みたいで、自由参加型の2000円徴収ジュース飲み放題とやらだ
打ち上げっても酒は出ないし(学生が多いイベントだったんだろう)お菓子がちらほらあるだけ
でも客からすれば大好きなバンドマンと喋れるかもしれないしってんで人はまだそれなりにいた

俺は四組目のボーカルを思わず目で探した

バンドマン達は壁際のソファーに座って煙草吸ったりして盛り上がっていた
やっぱそこには見えないラインがあるんだよな
客も気軽には近づけないみたいだ

金髪のボーカルはそこにはいなかった
帰ったのかなって思うと一気に熱が冷めてきて、俺も帰ろうかとしたら
幼馴染が「こっちこいよー!」って俺を呼んだ

呼ばれて「こいつ幼馴染なんだぜwww」って周りに紹介される
「幼馴染!すげえ!」なにが凄いんだか
「鉄板だなwww」そんな鉄板は嫌だ
まあ幼馴染っていたりいなかったりするよな
そのくせドラマでもなんでも鉄板な間柄だよな

ネタ要員として呼ばれただけだった
俺と幼馴染がどれぐらい仲がいいかっていうと、幼地味じゃなけりゃ付き合いがなかっただろうってぐらいなもんだ
決定的に性格が違うからそれは仕方ない
俺はノリが悪い系統だけど、幼馴染はクラスでも目立つタイプだ
そんな幼馴染が羨ましいと思ったり「やべえだろwwwまじやべえwww」こんなん見てると思わなかったり

どこまでいっても俺はバンドマンじゃないし、曲の趣味も多分合わないし
誘われなきゃ来ないだろうイベントだ
俺は音楽あまり聞かないし、聞いても静かな音楽が多い

だから暇で、適当な頃合見計らってその場を離れた
帰ろうかどうか考えたけど、ふとステージに目が行った
あそこであの人は歌ってたんだよなーって

明るかったステージは暗くなっていた
その代わりにライブハウス全体がオレンジの柔らかい光で照らされていた
ライブをしていた時と真逆な印象に寂しくなったけど
ぼうっと眺めていたら金髪のボーカルが浮かぶようだった
それだけ強烈で、印象的で、脳裏に強く刻まれていた

どれぐらいそうしていたのか
「なにしてんの?」と声をかけられた
聞かれて、なにしてんだろうなーと解らなかったから
「なにしてんだろ」って鼻で笑った

振り返ると、金髪のボーカルがいた
まさかここにいるとは思ってなかったし、ましてや俺に声をかけてくる理由が解らなかった
だから動揺した、ってこれはもう言い訳だな
女子に声をいきなりかけられて動揺した
ましてやそれが心を奪われていた相手なんだから尚更だ

「あ、えと、あの」
多分こんな反応しかできなかった
ただこれは記憶が美化されていてもっと酷かったかもしれない
おふwwwおっふwwwとは言ってなかったけど

「暇じゃね」
見た目通りの言葉遣いだった
ちょっと粗暴で直接
女の子らしくなくて、かといって男臭くもない

さっきまで暇だったけど今はもう暇じゃないんだけど
暇じゃね?って聞かれてるってことは同意を求められてんだからと頭が働いた気がする
俺はこくりと顎を振った

「だよな」

会話は続かない
俺はあれだ、コミュ力が低い
少なくとも会話が上手な方じゃない

向こうは多分、会話をしないタイプだ
するときだけする、みたいな
それは印象に過ぎなくて、仲良くなれば普通に会話もするんだろうけど

「じゃあ行くか」
とこれが物語ならそう続くんだろうけど、いかんせんただのリアルなので
金髪の彼女が俺の手を引いてライブハウスを出てデートになり・・・的なことはなかったです

どれぐらいの間か彼女は隣にいたままで、暫くしてどこかに行った
俺はそれが堪らなく悲しかった、かな?わからん

打ち上げは途中で抜けて家に帰った
自室のベッドに倒れこむように沈んでも彼女を鮮明に覚えていた
綺麗な金髪はさらさらと流れていた
目は大きめで、はっきりとしていた
だけどどこか虚ろな、なんだろう、淋しげな感じを思わせた
顔は全体的に小さくて、口もちょこんとしていた

そんな全てが忘れられないまま、翌日
学校に行った俺は別のクラスにいる幼馴染のところへ直行した
「おー、昨日は途中で帰ったんだな」
言われて、まあねと答えたら「お前はああいうとこ苦手だもんなー」と豪快に笑った
こういうところが楽だ、幼馴染ってのは
自分のことを解ってくれているから押しつけすぎもしないし、気楽でいい

「楽しめたか?」
「うん、ありがとう」
「俺らのバンドは?」
「微妙すぎ」
「やっぱりwww」
ほんと、気楽でいい
「で、どしたん?」
用事があったから訪ねた
それはもちろん金髪の彼女のことだった
しかし俺は聞くのが億劫だった
幼馴染は気の置けない仲ってやつなんだけど、そんなこいつにでさえ女関係の話なんてしたことがない
それに、音楽やってんのに気になる人ができましたって、なんか幼馴染を侮辱してる気がした

「あの、さ」
言いたくて喉まで来てるのに言葉にできない
「なんだよwwwお前まさか気になる子でもいたんかよwww」
俺の中で幼馴染が神格化された時だった
こういうのって雰囲気でわかるもんなんかな?

「そうじゃなくて」
俺ってバカだ
「四組目の、お前がやばいっつってたバンドあったじゃんか」
「おーおー、ネクロスティックな」
そんな奇っ怪なバンド名だったのか
「多分それ。あれの次のライブっていつだろ」
「おお!お前も気に入ったのか!」

凄く不純な動機だったから、幼馴染のきらきらした瞳が見てられなくて、視線を逸らして同意した
「あそこは頻繁にライブしてんぞ。二週間にいっぺんだったかな。行くか?」
キツツキみたいに頷いた
「じゃあチケットとっといてやるよ、俺も行くし」
これほど幼馴染に感謝したこともなかったろう
「ほんっとありがと!」
「お、おう」
あの幼馴染が引くほどに感謝した
二週間後に楽しみを控えるなんて滅多にあることじゃない
修学旅行とか学校行事がそれにあたるけど、この時に比べたらテンションは雲泥の差だ
まだ夏休みだったけどやることはなかった、宿題終わらせてたし

ネクロスティックというバンド名を携帯で検索してみたりもしたけど出てこない
あれに近しいジャンルの曲を幼馴染に教えてもらって、TSUTAYAで借りたりしたけどピンとこなかった
俺はとことん不純な動機であのバンドが好きになったんだ
バンドがっていうか
ただ、金髪のボーカルをもう一目見たかっただけ

特にこの間はなにもなかったし一気に飛ばそう、二週間後
えっさらほいさと自転車で二十分
住宅街、大通り、田んぼ道、学校の横、公園の横なんかを通って辿り着くライブハウス
幼馴染とは現地集合だったのでメールを送ると
『もう少しでつくわー』とのこと

ふと気になって店外の小さな黒板に目をやった
本日のセットリストにイベント名が書かれていた
[発狂寸前サタデーナイツ!]
・・・どうなんだそれは

イベント名で解る通り、この日のイベントは夜だった
夕方の七時から始まるライブ
両親には幼馴染の家に泊まると言ってある
到着した幼馴染を見てちょっとだけ驚いた
茶髪になっている
「染めたんだよ、似合うだろ?」
「ファービーみたい」
「まじで!? 鳥!?」
そんな軽口を叩いてライブハウスに入っていく

前は一組目の途中だったけど今回は始まる前
嵐の前の静けさに似た、独特な高揚感と静寂が空気を埋めていた、気がする
なんかそれっぽいの想像してくれたらいいや

「ネクロスティックは今回も四番目だな」
約二時間後だ
先は長い
今回は一組目から三組目までを省略
特に目を見張るものはなかった
強いて言うなら幼馴染が三組目で最前列へ特攻してもみくちゃになり、帰ってきたら額から血を流していたことぐらいか
「最前は楽しいぜぇ~!」
マゾだ

休憩時間を終えて四組目が登場する
女の黄色い声援が響いた
金髪のボーカルもまた、あの雰囲気を纏って現れた
マイクスタンドを調節して、持ってきたペットボトルを傾けて飲む

胸が高鳴っていた
ドラムが位置を調整する
ギターとベースがチューニングを始める
金髪の彼女がマイクの通りをチェックする
高揚感が手足を痺れさせて、意識を朦朧とさせた

二週間待ち望んでいたからだろうか、浮き足立ってしまっていた

タタンッと叩かれ、ジャーンと弾かれ、ベースがリフを奏で始める
前もそうだったがMCはない
曲が始まる
金髪が口を開く

遅れて、歌声が全身を震わせた

ノっているっていうのとは違う気がした
最前で騒ぐわけでもなく、壁際にいる足でリズムを取るでもなく、ただただ茫然と立ち尽くしていた
その世界観にひたすら酔っていたのかもしれない
なんにせよ、ずっと楽しみにしていたものだった

「前行かねえのかよ!」
耳元で幼馴染が叫んだ
前に行く必要はなかった
このままでも充分に楽しめるから、心地いいから
それに俺はマゾじゃない
頭から血をだしてにやにやしていられるとは思えない

それでも前に行きたくて、足が一歩進みだす
「行くぞ!」
幼馴染がいつものように特攻する
どうするべきかわからず、続いて俺も特攻した

前は後ろと違って無法地帯と言って差し支えなかった
全員が激しく揺れ動いているからか全体のうねりが激しい
足を踏ん張ってないと横から押し寄せる力に弾かれてしまう

それでも必死に留まり続けて、前へ前へと進んでいけば
少しだけボーカルとの距離が近くなる
もっと間近で見たいと願うようになる

曲が最も盛り上がるところで全員が拳を突き上げる
何度も何度も天を突く様子はさながら宗教じみている
だけどその一体感がはたまた気持いいもので
俺も同じように突き上げた
まあ、ここまでは普通にライブのお話、なんだけど
イベント名を思い出してほしい、発狂寸前である
そしてバンド名はネクロスティックで、前のライブ同様重低音の激しいサウンドだ

これは後に知ったジャンル名だが、ハードコアだった

ハードコアのライブに行ったことが無い人は多いと思う
はっきり言うと、危ない
本当に危ない
無法地帯なんてもんじゃない

その曲は前にやらなかった曲だろう
前は学生が多かったから
でも今日は違う

曲が始まるやいなや、暴動が起こった
暴動、ってとはちょっと違うか

要は、客同士での殴り合いが始まった
喧嘩じゃない
殴り合いだ
違いがよくわからんが、殴り合いですらノっていると認識される
どうりで前に女性がいないと思ったとか、考えた

考える間もなくぶっ飛ばされた
初めて人に殴られた、それも多分、本気で

もみくちゃになっての殴り合いだ
激しいサウンドでテンションが振り切れての殴り合いだ
加減なんてない
頭の隅っこで、ドラッグパーティーってこんなふうかなって思った
そのイメージは漫画とかによるものなんだろうけど

俺は、恐い、って思わなかった
なにくそ、って思わなかった
殴られて、痛い!って思わなかった
全部が全部曲の効果だったんだろう

ただ野性的で粗暴で狂ったノリ方に、後に幼馴染に言われて知ったことだけど
俺は、笑っていた
さてさて
笑おうがなんだろうが俺の人格を思い出してほしい
幼馴染のようなテンション高い目立つ系ではないということ
それってつまり、文化系だ
筋肉もなければ喧嘩の経験もない
そんな俺がそんな場所で笑いながら人に殴りかかろうとしたらどうなる?

殴れない、そして殴られる
それでも俺は向かっていった
せめて噛みついてやろうと思った
ということは顔面から身を乗り出して行った

バチって頭ん中で電気が弾けた
同時に視界が真っ暗になって、俺の意識はそこで途切れた

目を覚ますとライブハウスじゃなかった
病院だった、ってわけでもない
白い蛍光灯がテラス、ソファーとテーブルが置かれた場所
整ってるわけでもなくて、かといって乱雑でもない、適当な場所

楽器が沢山置いてあった
机の上には煙草と酒とジュースとお菓子
頭がぼうっとしていた

起き上がろうとしたらハンマーで殴られたみたいに頭痛がした
うめき声でも出てたんだろう
「大丈夫?」
全く心配してないと声の調子にも態度にも現れて聞いてくれたのは、俺が寝転がった頭の先に座っていた人
金髪のボーカルだった
後退るってのはこの場合間違いだけど、逃げようとしたら身体が動かなくてまた呻いた
「動くな動くな。ほら、酒でも飲むか?」
・・・なんで、酒?と思わずにはいられない
「酒飲んだら痛みは引くんじゃない?」
ものっすごい適当な声色だった
私も知らないけど、と続きそうな感じ

小さく首を横に振った
前と違って動揺はしていない
意識がまだ安定してないから

「無理しないほうがいいよ」
心配してくれてるのかと思ったけど
「弱いのに前でたら、危ないから」
寧ろ鬱陶しそうな風だったので、俺は歯がゆかった
自分の弱さを情けないと感じたのは、これが初めてのことだった

「ごめんなさい」
唯一言えたのがこれだけだった
もっと途切れ途切れで、小さい声だった気がするけど

すると金髪ボーカルは「あー、んー」と悩んだようにして
「ごめん、私は口が悪いんだわ」と言った
そんなつもりじゃなかったってことなんだろうか
それでも俺は自分の不甲斐なさを痛感していたから

不意に泣きそうになった
けど、それを悟られたくなくて腕で目を隠した
断言するけど俺は方も揺らしてなかったし鼻水も垂らしてなかった

でも、金髪ボーカルは俺の頭に手を置いた
撫でるわけではなく、ぽんぽんと
なにを言うわけでもなく、ぽんぽんと

ただそれだけのことが胸に沁みて、やっぱり泣きそうになったんだ

少し時間が経って、俺が落ち着いて、なんとか座れるようになった
すると金髪ボーカルが何も言わずにオレンジジュースのペットボトルを俺の前に置いた
飲んでいいんだろうなと思って口をつけると、口の中が切れていて痛かった

「あんたさ、こういうとこ来るような子じゃないだろ?」

やっぱりそう見えるよな、と思った
外見も性格も大人しい

「別に誰が来たっていいんだけどね」
それきり向こうは黙ってしまった
俺が答えなかったからだろう

なにか言わなきゃ、と思って
必死に振り絞った言葉がこう

「貴方が、かっこよかったから」
それぐらいしか出てこなかった
まだ好きって感情はなかったし、本当のことだったから

意外にも彼女の反応は
「そ、そう? かっこいい?」
と嬉しそうなものだった

俺からした彼女っていうのは
歌っている時のかっこいい様相と
前に話しかけられた時のつまらなさそうな雰囲気だけ
だから今回の、嬉しそうにはにかむ表情は意外で
見惚れた

「そっか、かっこいいか。ははっ」
変な人
でもこういう格好をしてああいう歌を歌ってれば、かっこいいと言われることが嬉しいんだろうか

「はい、かっこいいです」
もっと喜ばせたくて、もう一度言った
「もういいって、照れるって」
と顔を逸したこの人を、ある意味で初めて女性だと認識した
たぶん、可愛いって思ったから
「大丈夫か!」
いきなり中に入ってきたのは幼馴染だった
その頃にはもう楽屋だって知っていた
もちろんその楽屋には俺と金髪ボーカル意外にも、疎らに人はいたよ
あまり多くもなかったけど

手を挙げて大丈夫だと合図すると、幼馴染はすっ飛んできた
「お、お前!」の続きは耳元で囁くように「どうやって秋さんと仲良くなったんだよ!」と続いた
秋さんと言われてボケーっとしてたけど、金髪ボーカルさんの名前なんだろうと気づく

「仲良くなってないよ」
普通に答えた
「でも隣にいんだろ!」
その囁きは金髪ボーカル、秋さんにも聞こえたようで訝しむように幼馴染を睨んだ
「なに?」
「前のイベントで対バンやらしてもらいました、幼馴染です!」
「・・・いたっけ。悪い、覚えて・・・」
本当に覚えてないようで、幼馴染はしゅんとしたけど
「あっ」
と秋さんが言ったから笑顔になって
「そういえば居たね、あんた」
と指さされた先は俺の方だったから幼馴染は崖から落とされたようだった

「あ、俺、ですか」
「そーそー。いたじゃん、覚えてるわ。なにこいつ打ち上げでステージ眺めてんだろって」
「そういえば、眺めてましたね」

そういえば、なんてもんじゃない
初めて彼女と喋った事柄なんだから、忘れるわけがない

「なに?あんたもバンドやってんの?」

俺に対する態度と幼馴染に対する態度が確かに違う
ちょっとだけ俺は優越感を持った
「いや、俺は・・・」
「やったらいいのに、もったいない」
「もったいない、ですか?」
「そーそー。弱いくせに前出て暴れられんなら客やってるよりバンドやってたほうが楽しいし危なくないじゃん?」
凄い合理的だと思った

「私もなんだかんだで女だからね、最前で暴れられるほど強くもないし」
「暴れてそうですけどね」
「そりゃあんたよかマシだろうけどさ」

女性に負ける俺
まあ負けるだろうけどね

「でもやっぱ、ああいう場に女ってのは浮くんだよ。なんで女がいんの?ってなるわけ。邪魔だなーってなんだろうね」
ちょっとだけわかる
あんな激しいノリの場所に女がいたら、手加減せざるを得ない
その時点で熱は冷めてしまうだろうし、仮に手加減せずにやっちゃったら(いそうだけど)本当に危ないだろう
腕力には決定的に差がある

「だから私はボーカルになった。あんたもボーカルになれば?」
「向いてないです」
そもそも、ああいう激しいジャンルの曲が好きかどうかすら微妙だ
ただ秋さんが歌っていたから、叫んでいたから、心に熱が持っただけで

「そうなんすよ、こいつ昔っから根暗なんすよ」
「っぽいね」
と二人が笑う
「でも、やるときゃやるやつっすよ」
と幼馴染が続けた
なにそのフォロー、嬉しいんだけどなにそのフォロー

幼馴染の言葉に秋さんは極々普通に
「知ってるよ」と返した

それだけで、今日の無力感なんて吹っ飛んだ
「あんたこのあとどうすんの?」
秋さんが俺の目を見て聞いてきた
俺は女性と真正面から目を合わせたことが、多分母親ぐらいしかなかった
ましてや隣に座っているというこの状況で

「あ、の」
答えあぐねた
なんて質問されたのかすら忘れる勢いで、秋さんの瞳に飲まれた
「暇っすよ、なあ?」
幼馴染に肩を叩かれて我に返る
「は、はい、暇です」

「んじゃー打ち上げ参加しなね。どうせつまんねえ打ち上げだから、暇つぶしに付き合ってよ」
そう言って、秋さんは立ち上がり、楽屋を出て行った
爆音は壁に阻まれて漏れている程度だけど、まだライブはしているんだろう
長い時間は経っていなかったらしい

とんとん、と肩を叩かれる

「あのな」
「ん?」
「俺に好きな子ができたとするだろ?」
と幼馴染が聞いてきた
「うん」

「そんときゃお前、めちゃくちゃ応援しろよ」
「う、うん?」
「デートの約束とか、告白のセッティングとか、なんなら金だって貸してくれ。とにかく、応援しろよ?」
幼馴染がなにを言ってるのかよく解らなかったけど、有無を言わせない感じだったので
「まあ、金以外なら」と答えた

「よし、じゃあ俺はお前を応援してやる」
「・・・は?」
「好きなんだろ?秋さん。手ごわいぞ、秋さんは。多分、どう足掻いても無理だろうけど、応援してやる」
なんかよくわからないけど、幼馴染がかっこいいことを意識してかっこいいことを言い始めたのだけはよくわかったので
「それなんの台詞?」って聞くと「ふざけんなオリジナルだ」って返ってきた

「好きかは・・・わからないよ」
「考えてみりゃお前がハードコアに嵌るってのもおかしいしな。松任谷由実とかあのよくわからん、欝な曲しか聞かんお前が」
「松任谷由実は凄い歌うまいし、欝だけど倉橋ヨエコはいい曲ばっかだよ」
「まあそのへんは本気で趣味が合わねえからいい。いやだからおかしいんだろ」

「気になってんだろ?」と幼馴染
答えられなかった
図星だったから
「よし、じゃあ決まりな。頑張れよ」
「・・・なにを?」
「・・・普通に会話を?」
幼馴染のアドバイスは実に適確だと思ったよ
ライブが終わって、前と同じ打ち上げ
いや前とは色々と違う
例えば酒は解禁されてるし、客全員がと言っても過言ではないくらい煙草を吸っていて煙たい
そして、隣に秋さんが座っている
秋さんが座っている!
会話はない

幼馴染のアドバイス通り、普通に会話を試みたかった
でも内容が浮かばない
秋さんが机の上の煙草に手を伸ばす

「煙草、吸うんですね」
「うん。あんたは吸わないの?」
「十五才ですから」
「うん、それで?」

つくづく別世界な人だ

「あ、なるほど。そうか、真面目君か」
「・・・普通です」
「ごめんごめん、こんな場で慣れるとね。そういう感覚どっか行っちゃうんだよ」
殴り合いが普通の場所にいたらそうだろうなーと納得

「じゃあ煙草も酒もやらないんだ」
「そうですね」
「興味もないんだ」
「煙草は全く」
「ほう、酒には興味あるんだね。おーい」

秋さんが手を挙げて大胆なことを言う
「置いてある酒の種類全部持ってきてー」
「全部!?」
あれだ、鳩が豆鉄砲食らったような、ってやつ
俺は鳩になって豆鉄砲食らったんだよ
机の上に揃えられた十種類の酒
「全部すか?」とこれは多分、スタッフかな?バンドメンバーだったかもしれない
「いやこんだけあればいいかな」と秋さん




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